千里ニュータウンにお住まいのみなさまから、就学・就職・転勤などで他の地域に転居された千里ニュータウンのOB・OGのみなさまから千里ニュータウンの思い出をお聞きしています。

上新田:千里ニュータウンのルーツ

2006年9月1日から22日まで、千里中央の千里公民館で開催された「千里ニュータウン展@せんちゅう」の展示パネルをウェブサイト上で紹介するものです。

上新田:千里ニュータウンのルーツ

千里丘陵には、かつて上新田の人々の耕作地が広がり、農業生活が営まれていた。千里ニュータウンが開発される際、集落があった区域——現在の上新田の区域——だけが計画から除外され、集落を囲むようにニュータウンは作られた。千里ニュータウンよりも長い歴史を持ち、千里ニュータウンとともに歩んできた場所・・・ 上新田は千里の生き証人なのだ。

千里丘陵に展開された社会空間システム(1)

千里ニュータウン開発前の丘陵には、谷筋に田畑とため池が連なる風景が広がっていました。中でも、上新田集落の人々が耕作していたものは、現在の新千里北町、東町、南町等の住区におよぶ広大なものでした。
上新田は、江戸時代初頭、1626年の新田開発により形成され、明治以降に、上新田村(1871〜1889年)、新田村(1889〜1953年)として自治が行われてきました。1953年には豊中市に分村編入され、ニュータウン開発の頃には、280戸程度の世帯で構成されていました。

農地を維持するためには、膨大な労力と協力のしくみが必要です。従来、上新田集落は「垣内」という社会組織の連合体であり、同じ垣内の人々が同じ池筋の田畑(同じため池から水を引く田畑)を耕す場合が多く、池や道の維持管理を協力していたと考えられます。

ため池には、人工的に造った堤をつき固めたり、雑草を抜くなどのメンテナンスをしなければなりません。
このメンテナンスをする社会集団の大きさにより、池の格が「殿池」、「仲間池」、「個人池」に分かれていました。
殿池は集落全体で維持・管理をするもので、最も大きな池筋(同じ池の水を引く水田群のまとまり)の最先端(水上側)にあります。現在もニュータウン内に残る樫の木池と安場池が、この殿池に当たります。一方、仲間池は、中規模な池筋の最奥(水上側)にあり、池の‘かかり’にある(つまり、池の水を引く)水田群の耕作者のグループが、この仲間池を管理することになります。また、小規模なため池で、単独の世帯の水田だけに水を供給するものが個人池といわれていました。個人池と個人の水田のまとまりを「野末(ノズエ)」とよびますが、野末は一世帯で管理をしなければならないため、農作業が大変な場所であったとされます。

千里丘陵に展開された社会空間システム(2)

計画除外地の原型(上新田集落と弘済院)
上新田の田畑の大半は、ニュータウンへと開発されましたが、村落を中心とした地区はニュータウン開発地域から除外されました。ニュータウンの中心部分ではありますが、用地買収に反対する住民の心情が理解され、約90万m2が計画除外地となりました。
ニュータウン開発前、農業が営まれている頃の集落における民家は、日常(家事・農作業)と非日常(結婚式・葬式・年中行事)の生活様式に対応した屋敷構えをもっていました。例えば、地元の方の結婚式の思い出を再現すると、図のようになります。養子にやって来られた新郎側の親族がオモテ側に座り、血縁の濃い親族がカミ側に座ります。また、屋外では、カミ側が観賞用の庭(センザイ)、シモ側が農作業の場(ニワ)となるなど、カミ・シモ・オモテ・ウラといった住空間の意味が現れているのです。
また、村落の他に、療養所(社会福祉事業大阪市立山田弘済院)も開発前から存在していました。 この敷地も、施設の性質が配慮され、計画除外地として残されることとなりました。

社会空間システムの再構築
ニュータウン開発から40年が経過した現在、旧集落や公園・緩衝緑地の原地形に開発 前の社会空間の痕跡が残されており、千里ニュータウン成熟の新しい展開のために生かすべきであると考えます。現在も旧集落で継続されている秋祭りは、農業の喪失により本来の成立要因を失っていますが、千里ニュータウンの住民にも重要性が認識されることにより存続の価値が高められていくはずです。さらに、ニュータウンの竹林を維持管理する「竹の会」の取り組みも注目されます。人々の手が入り、向こうの景色が見える、透き通った竹林は、旧集落における耕作世代の原風景の再生と見ることもできます。
これらには、イベントや竹細工が盛り込まれるなど、現代に合った方法による千里の 原風景の再生として意義があります。また、緩衝緑地に期待される役割が変化しつつあり、周辺市街地や大阪大学など、周辺のコミュニティとの協力による境界部分のリデザインや運営に、新しい時代のしくみの形成が期待できるはずです。